大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

岡山地方裁判所 昭和33年(レ)43号 判決 1960年8月23日

第一審原告 安達一郎 外一名

第一審被告 松尾武夫

主文

第一審原告安達一郎及び第一審被告の控訴はいずれもこれを棄却する。

当審における訴訟費用中第一審原告安達鼎と第一審被告との間に生じた部分については全部第一審被告の負担とし、第一審原告安達一郎と第一審被告との間に生じた部分についてはこれを二分し、その一を第一審原告安達一郎の、その余を第一審被告の各負担とする。

事実

第一審被告(第四一号控訴人、第四三号被控訴人)は第四一号事件につき「原判決中第一審被告勝訴の部分を除きその余の部分を取消す。第一審原告等の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告等の負担とする」との判決並びに第四三号事件につき控訴棄却の判決を求め、第一審原告安達一郎(第四三号控訴人、第四一号被控訴人)代理人は第四三号事件につき「原判決中第一審原告安達一郎の勝訴の部分を除き、その敗訴の部分を取消す。第一審被告は第一審原告安達一郎に対し同原告所有の総社市総社字川崎三百十七番の第二宅地の東南隅に設置した標石一個(原判決添付図面中表示(ハ))を取り除くべし。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする」との判決並びに第四一号事件につき控訴棄却の判決を求め、第一審原告安達鼎(第四一号被控訴人)代理人は第四一号事件につき控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述並びに証拠の提出、援用、認否は、第一審原告等代理人において甲第二号証を提出し、当審証人鳥越光治、同安達静子、同安達一女の各証言及び当審における現場検証の結果、当審における第一審原告安達鼎本人尋問の結果を各援用し、第一審被告において当審における第一審被告本人尋問の結果を援用し、甲第二号証の成立は不知と述べたほかはすべて原判決事実摘示のとおりであるからここにこれを引用する(但し原判決一枚目裏末尾三行目に「原告代理人は」とあるのは「原告等代理人は」の、又同末尾二行目に「第一第一項として」とあるのは「第一請求の趣旨として」のそれぞれ誤記と認めて訂正する。)

理由

第一第一審原告一郎の請求について

一、総社市総社宇川崎三百十七番の第二宅地は第一審原告一郎の所有であり、その北に隣接する同所三百十七番の第一宅地及び南に隣接する同所三百十七番の一宅地の両者は第一審被告の所有であること、第一審被告が昭和三十年十一月中に第一審原告一郎の主張する位置にいずれも約四寸角の境界標石合計三個(後記境界基点(イ)点附近に設置したもの一個を標石(イ)と又同(ロ)点附近に設置したもの一個を標石(ロ)と又同(ハ)点附近に設置したもの一個を標石(ハ)とそれぞれ呼称することとする)を設置したことは当事者間に争いがない。

二、第一審原告一郎は第一審被告が設置した右三個の標石は同原告所有の三百十七番の第二宅地内にあり、その所有権を侵害しているものであると主張するので以下考察してみる。

前記三筆の土地の東側は道路に面し、三百十七番の第二宅地内の東側には第一審原告一郎の居宅が、その西側には第一審原告鼎の居宅が、又三百十七番の第一の宅地上には第一審被告の居宅がそれぞれ建在していること、前記三筆の宅地の境界につきかつて当事者間に紛争が生じ結局昭和三十年二月二十一日岡山地方裁判所玉島支部昭和三〇年(ユ)第一号境界確認調停事件において当事者間に調停成立し、その条項の中で三百十七番の第二宅地と三百十七番の第一宅地との境界線は前記第一審原告一郎居宅と第一審被告居宅との東側道路に面する各外壁間の中央を(イ)点とし、前記第一審原告鼎居宅の屋根西北角の雨だれ落ちの地点を(ロ)点とし、右(イ)(ロ)の各点を結んだ直線(その延長線をも含む)であること及び三百十七番の第二宅地と三百十七番の一宅地との境界線は前記第一審原告一郎居宅の東南角の地点を(ハ)点とし、前記第一審原告鼎居宅の屋根西南角の雨だれ落ちの地点を(ニ)点とし右(ハ)(ニ)の各点を結んだ直線(その延長線をも含む)であることを双方が確約したことは当事者間に争いがない。

なお右調停条項で定められた境界地点のうち前記(ハ)点の現地については、第一審原告一郎は第一審原告一郎居宅屋根東南角雨だれ落ちの地点に該当するものであると主張しているのに対し第一審被告は右一郎居宅東南角柱の下の土台石の東南角に該当するものであると争つているので考察してみるに成立に争いのない甲第一号証の一、原審証人平田政一の証言と弁論の全趣旨を綜合すれば前記調停事件の調停調書には右(ハ)点を「第一審原告一郎宅の東側道路に面する東南角」と表示してあること、そのほかの境界地点の表示は(イ)点につき「第一審原告一郎と第一審被告との各居宅東側道路に面する各外壁の中央」と、(ロ)点につき「第一審原告一郎所有宅地内裏手西側に在る第一審原告鼎居宅屋根西北角の雨だれ落ちの地点」と(ニ)点につき「第一審原告鼎の居宅屋根西南角の雨だれ落ちの地点」と即ち境界地点を屋根雨だれ落ちの地点と定めた場合には(ニ)(ロ)の各点の如くにその旨を、又両建物の中央と定めた場合には(イ)点の如くその旨を各記載しており、しかもそれがいずれも現地に即してかなり具体的に表示されていることが認められるから(ハ)点は屋根に関係なく文字通り第一審原告一郎の右居宅東南角の趣旨であると解すべく、そして原審並びに当審における検証の結果(原審第二回)を綜合すれば一郎居宅の東南角は土台石であることが認められるから、右土台石の東南角をもつて前記一郎居宅の東南角である(ハ)点に該当するものと認めなければならない。

又前記境界地点のうち前記(ニ)点の現地についても第一審原告一郎は第一審原告鼎居宅屋根のトタンぶき部分の西南角雨だれ落ちの地点に該当するものであると主張しているのに対し第一審被告は右鼎居宅屋根のトタンぶきを除く部分の西南角雨だれ落ちの地点に該当するものであると争つているのでこの点につき考察してみると前記調停事件の調停調書には(ニ)点を「第一審原告鼎の居宅屋根西南角の雨だれ落ちの地点」と記載されていることは前示のとおりであるが、原審並びに当審における検証の結果(原審第二回)及び当審における第一審原告鼎本人尋問の結果を綜合すれば、第一審原告鼎居宅南側には瓦ぶきの屋根に接合して九寸二分幅のトタン小庇が設けられてあり、その端に雨樋が付けられてあること、右トタン小庇は第一審原告鼎が大正十二年前記居宅を新築した際設置したもので、それ以来現状どおり存置されているものであることが認められ、右事実によれば右トタン小庇は本来の屋根ではないが、その延長として前記調停条項の「第一審原告鼎居宅屋根西南角の雨だれ落ちの地点」の中の右「屋根」に包含すべく右トタン部分の西南角の雨だれ落ちの地点をもつて(ニ)点に該当するものと認めるのが相当である。

そうすると第一審原告一郎所有の三百十七番の第二宅地の範囲は特段の事情のない限りその北側は三百十七番の第一宅地との境界線内即ち第一審原告一郎居宅と第一審被告との東側道路に面する各外壁間の中央(イ)点と第一審原告鼎居宅の屋根西北角の雨だれ落ちの地点(ロ)点とを結んだ直線(その延長線を含む)に至るまで、南側は三百十七番の一宅地との境界線内即ち第一審原告一郎居宅東南角の土台石の東南角(ハ)点と第一審原告鼎居宅屋根のトタンぶき部分の西南角雨だれ落ち地点(ニ)点とを結んだ直線(その延長線を含む)に至るまでということになり、なお三百十七番の第二宅地の東側は前示のとおり道路であるが、第一審原告一郎居宅の東側外壁から東へ約三尺七寸四分進んだ部分までは同地の範囲内であることが弁論の全趣旨によつて認められる。

しかして前記標石(イ)(ロ)につき原審並びに当審における検証の結果(原審第一、二回)及び当審証人安達一女、同安達静子の各証言と原審並びに当審における第一審原告鼎本人尋問を綜合すれば、前記標石(イ)は前記境界地点(イ)点から東の道路へ約三尺七寸四分進んだ地点にあるものであるが、右標石は前記(イ)(ロ)線上にありながら、その中心が約一寸南にそれて、右標石の幅員四寸二分のうち南側約三寸の部分が三百十七番の第二、宅地内にあること、又前記標石(ロ)は前記境界地点(ロ)点から東へ約一尺五寸九分離れた地点にあるものであるが、右標石(四寸二分角)は前記(イ)(ロ)線上から僅かに南へ遊離してその全体が同上宅地内にあること、右標石(イ)(ロ)は第一審被告が三百十七番の第二宅地と三百十七番の第一宅地との界標として設けたものであるが、いずれも第一審原告一郎との協議を経ずその承諾なくして第一審被告の独断で設置したものであること、右両標石はいずれも堅固な石で作られかつその頭上に正確でない方位線が刻んであることが認められる。右認定に反する原審並びに当審における第一審被告本人尋問の結果は措信できず他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定事実によれば前記標石(イ)は三百十七番の第二宅地と三百十七番の第一宅地の境界線上にあることが明らかであるが凡そ土地所有者がその土地と隣地との境界線上に界標を設置する場合には民法第二百二十三条の趣旨により隣地所有者の承諾を要しその承諾を得られないときはこれが協力を訴求すべきものであると解すべきところ、前示のとおり第一審被告は隣地所有者である第一審原告との協議を経ずその承諾を得ることなく右標石を前記境界線上に設置したものであり、右標石の三百十七番の第二宅地に侵入している部分は三寸であるが、右標石は四寸二分角の堅固な石にその頭上に正確でない方位線を刻んで作られているものであるから、右標石の設置はその一個全体が同地の所有権を妨害しているものと認められ、又前記標石(ロ)は前記境界線上になく第一審被告が正当な権原に基かないで同上宅地内にこれを設置したものであるから同地の所有権を妨害していることが明らかである。

したがつて第一審被告は右宅地の所有者である第一審原告一郎に対し右標石二個(イ)(ロ)をそれぞれ除去すべき義務があるものといわなければならない。

次に前記標石(ハ)につき原審並びに当審における検証の結果(原審第一、二回)を綜合すれば該標石(ハ)は前記境界地点(ハ)点から東へ二尺二寸五分離れた地点にあるが、右標石は前記(ハ)(ニ)線上から僅かに南へ遊離して、三百十七番の第二宅地に南隣する第一審被告所有の三百十七番の一地上にあることが認められ、右認定を覆して標石(ハ)が三百十七番の第二宅地内にあることを肯定するに足る証拠はない。

してみると前記標石(ハ)はなんら第一審原告一郎所有の三百十七番の第二宅地を妨害しているものでないから、右標石の除去を求める同原告の請求は理由がない。

三、以上説示のとおり第一審原告一郎の第一審被告に対する請求中前記標石二個(イ)(ロ)の除去を求める部分は理由があるからこれを認容すべきであるが前記標石一個(ハ)の除去を求める部分は失当としてこれを棄却すべきである。

第二第一審原告鼎の請求について

第一審原告鼎の本訴請求は正当として認容すべきであることは原審がその資料としたすべての証拠によつて認めた事実(第一審被告の当審において提出援用する全証拠によるも右認定を覆すに足らない。)により、かつ原審の説示と同一の理由に基いてこれを認めることができるから、原判決の理由の記載(原判決十枚目表六行目から同裏十行目まで)をここに引用する。

第三よつて以上と同趣旨に出でた原判決は相当であり第一審原告一郎及び第一審被告の本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、民事訴訟法第三百八十四条、第八十九条、第九十二条、第九十五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 池田章 緒方節郎 広岡保)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例